日本で一番売れている輸入車ブランドである「メルセデス・ベンツ」。自動車メーカーとして来年は創業140年を迎える老舗メーカーで、高級車の代名詞的存在にもなっている。今回、そんなメルセデス・ベンツ内でも最上級のラグジュアリーブランドになるマイバッハの名を冠する電動SUV『EQS680SUV』とベストセラーモデルの「GLC」シリーズに試乗する機会を得たのでレビューしたい。
●陸のファーストクラス
最初に乗ったのはメルセデス・マイバッハ『EQS680 SUV(以下EQS680)』。メルセデスのネーミングでEQは100%電気自動車(BEV)を表し、末尾のアルファベットが内燃機関モデルのクラスになる。今回のEQSはBEVのSクラスで、さらにネーミングの通りSUVスタイルのクルマだ。なおEQSにはセダンもラインナップしている。
同メーカーが最上級のラグジュアリーを提案するモデルが『マイバッハ』だ。一時期は「ブランド」として復活を果たしたが、今はモータースポーツで著名なメルセデスAMG同様のサブブランドとなった。そして、現行のメルセデスでは数少ないボンネットマスコットを採用している。
マイバッハはメルセデス・ベンツ黎明期のエンジニアの名前に由来。彼の名前は詳しくなくても、メルセデスを出た彼が企業家と作った飛行船「ツェッペリン」はご存知の方も多いはず。実はツェッペリンはマイバッハ氏が組んだ企業家の名前でもある。
そして今やマイバッハは世界の高級車市場でも多くのファンを掴んでおり、日本でも独特な2トーンのボディカラーを纏ったモデルを見る機会が多い。試乗車の『EQS680』は前述のように完全な電気自動車。前後にモーターを配した2モーター式でシステム合計の最高出力は658PSあり、最大トルクは脅威の955Nmを誇る。モーターの特性とこの豊かなトルクで0-100km/h4.4秒とかなりの俊足。車重が3050kgもあるのに、だ。
試乗日は生憎の雨天。時折、雨足が強くなるほどの土砂降りだ。そんなコンディションの悪い中でもリラックスして運転できたのは、クルマの懐の深さの証でもある。重量のかさばる118kWhのバッテリーは、床下に敷き詰めることで低重心。加えてモーター、トランスミッション、冷却システム、パワーエレクトロニクスを一体デザインしたeATSとメルセデスの4輪駆動技術、4MATIC+でコーナリングはもちろん高速への合流でも不安なく走れた。またブランドの美点でもある取り回し性能の良さは健在。全長で5m超え、全幅で2m超えの巨体でも後輪操舵システムの最小回転半径は驚異の5.1mだ。
車内空間はさすがに豪華。前席で目を引くのは助手席まで広がる約140cmサイズの液晶パネル。このMBUXハイパースクリーンは焼き付き防止のため、目で感じないレベルで画面が反時計回りに動いている。助手席は助手席で動画やインターネットなどを楽しめるほか、シートマッサージも可能と至れりつくせり。
後席は壮観。試乗車にはファーストクラスパッケージが装着されており、見た目にもその感が強い。足元スペースはもちろんシートのサイズもたっぷり。ほぼほぼフラットになるシート、格納式のテーブル、クーラーボックスなどなどこの手のベクトルのクルマに求められるものはすべてが揃う。乗り心地はさすがで、不必要な揺れや振動も皆無。当日の強雨でも室内の静粛性は信じられないくらい高かった。価格が2790万円からとなっているが、このクラスの中では抜群のコスパなのかもしれない。
●ブランドのベストセラーSUV
次に乗ったのはメルセデスのベストセラーモデル「GLC」シリーズ。同車はミドルクラスのSUVで初代がデビューしたのは2015年。これがたちまちベストセラーになり2020年にはブランドで最も売れたSUVの座を獲得している。その人気ぶりは衰えることなく、2022年に2代目モデルに移行、世界中でも人気を博してきた。日本市場も同様で2024年には日本で最も売れたメルセデス車になっている。そんなモデルに新しいグレード『Core(以下コア)』が加わった。
コアとは一言で言うなれば、「GLCの魅力はそのままにお求めやすく」した新しいエントリーグレード。エントリーグレードという響きでだいぶ装備を省いたな、と思いがちだが、使いやすいインフォテイメントシステムやSクラス譲りの高い安全性、SUVとしての悪路走破性はそのままだ。
コアの試乗車はGLCファミリーでもスタイリッシュなクーペモデル。スポーティなシルエットにSUVらしく力強さを感じるフェンダーはGLCの魅力でもある。
「らしさ」を感じられるドアノブを開け、車内に入ると豪華でスタイリッシュな従来のまま。指摘されたのは合成皮革になったシートだが、視覚的にはなんの遜色もない。むしろSUVなので手入れがラクな方がいいとも考えられる。コクピットは12.3インチ、センターは11.9インチのディスプレイはもちろん最先端のもので、動画や音楽のストリーミングサービスが使えたり、音声での操作が可能。
パワートレーンは2リッターディーゼルターボにモーターを組み合わせたマイルドハイブリッド。そのスペックはエンジン197PS、440Nmにモーター23PS、205Nmが加わり、思った以上にパワフル。
それは走り出しから感じられ、箱根の峠道でも深く踏み込む必要性がなかった。試乗車はAMGラインパッケージのオプションが装着され20インチサイズ(標準は18インチ)のアルミホイールを履いていたのでステアリングや乗り味がよりスポーティな印象だが、このあたりは好みの範疇だと思う。
最後にエントリーグレードにするにあたって何を省いたか、の種明かしを。上記のようにシートの素材のほかにウッド調のダッシュボードや本革シートのオプションは選べないことと、標準仕様では内装色はブラックのみに。
また走りに関することでは、リア操舵システムやエアマチックサスペンションがオプションできないといったもの。さらにボディカラーはホワイト、ブラック、シルバーの3色のみの設定で、豊富なメルセデスのオプションもAMGラインパッケージ(内装色は2色から選択可能)やパノラミックスライディングルーフ、いわゆるサンルーフの2つだけになっている。しかしながら。見た目にも乗り味にも変化はない。まさにGLCの魅力の核心はそのままだった。
2025-06-23T10:18:15Z