【クルマのメカニズム進化論 Vol.2】サスペンション編(2)~リアサス~
転舵という仕事から解放されていたリアサスペンションは設計の自由度が高い。リーフスプリングから出発し、様々な形式のサスペンションが実用化されてきた。今回はこの、リアサスペンションの進化について見ていこう。
※この記事は、オートメカニック2018年当時の記事を再編集したものです。
●文:オートメカニック編集部
【画像】「こんなにあるんだ!?」リアサスペンションの進化をイラストと写真で解説。
長い間、リアの車軸は固定式で、それをリーフスプリングで支えていた。コイルスプリングが実用化されると、一部の高級車でそれを使うものが現れ、さらに左右独立式が登場した。左右独立式の大きなメリットは、互いのタイヤのバンプとリバウンドの影響を受けにくいこと。初期の左右独立式はデフユニットをボディに固定し、左右の駆動アクスルをスウィングアームとするド・ディオン方式といわれるものだった。
乗り心地には優れていたがバンプとリバウンドによって大きなキャンバー変化が現れた。しかしこの時代のタイヤの幅は狭いもので、キャンバー変化は接地性を損ねる大きな欠点とはならなかった。
コイルスプリングを用いながら、リジッドアクスルを採用するクルマもあった。初期のもので代表的なのがベンツSL。フロントにはダブルウィッシュボーンを用いながら、後輪にはスウィングアクスルより接地性に優れたこの方式を採用した。
【画像】「こんなにあるんだ!?」リアサスペンションの進化をイラストと写真で解説。
ド・ディオンに代わる左右独立のエースとして登場したのはBMWが採用したセミトレーリングアーム。上級車やスポーティカーの定番となり、国産車でも1960年代、まず日産がブルーバード510やセドリック/グロリアに取り入れた。
当時の先端を行くセミトレーリングアームにも欠点はあった。その構造ゆえに高速域での入力に対して剛性が不足し、入力に対するブッシュの動きが操縦性に影響を与えた。強いブレーキではトーアウトに、そして旋回中の制動でもトーアウトとなり、車両を不安定にさせた。
このようなブッシュの動きを積極的に活用するサスペンションも現れた。1977年にポルシェが開発したバイザッハアクスルがそれだ。基本的にセミトレーリングアームとダブルウィッシュボーンの折衷に近い形式だが、アームを支える2つのブッシュの硬度を変えることによって、制動時や旋回中のアクセルオフではトーインとなるようにし、飛躍的に安定性が高まった。
それまで後輪は追従するだけのものと考えられていたが、これを契機に車両安定に積極的に関わるものという概念に変わっていった。
国産車では日産のHICASが有名だ。ブッシュの可動範囲の中でサブフレームを変位させた。旋回に入るとトーインにしてコーナリングフォースを高め、車両安定性を向上させた。
トーを積極的に制御するということでは、マツダも1985年、セミトレーリングアームにトーコントロールロッドを付けたものを2代目RX-7に採用した。
前輪駆動車ではリアサスペンションに対する負荷が低いことから、簡易な構造のものが使われてきた。代表的なのはトレーリングアームとツイストビームを組み合わせたものだ。左右リジッドに結ばれているが、ビームがツイストするため、簡易独立のような働きをし、接地性と乗り心地を両立させたこの方式は多くの前輪駆動車に採用されている。
1982年、リヤサスペンションに革新が起こる。ダイムラーがマルチリンク方式を開発し、ベンツ190Eに採用した。その名のとおり複数のリンクでハブを支える。キャンバーを制御するリンク、トーを制御するリンクというように複数のリンクには役割があり、これらによって、あらゆる状態のバンプとリバウンド、そして前後の入力に対し、適切なキャンバーとトーに制御される。
理想的なサスペンションだが、欠点もある。設置スペースとコスト。このため、マルチリンクを採用するのはある程度の大きさのボディが必要で、高価格車に限られる。
フロントサスペンションがマクファーソンストラット、ハイマウントアッパーアーム式ダブルウィッシュボーン、ダブルウィッシュボーンの3種に限られるの対し、リアサスペンションは様々な方式が採用されてきた。
転舵という問題から解放されていた面もあるし、エンジニアの発想を広げやすいパートでもあったということも理由の一つだろう。しかし今はマルチリンク、トレーリングアーム、ツイストビーム、ストラット、ダブルウィッシュボーンなどに収れんされている。
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2025-06-29T22:52:18Z