「ルノー5 E-Tech」には、なんと助手席の足元にバゲットホルダーがついている。そういえばこれが欲しかったような気がしてきた。まあ洒落のようなものではあるが、いかにもフランス車らしい、ひねりの効いた遊び心が感じられるディテールとなっている。
この記事には、空のバゲットホルダーの写真を載せようと思っていたが、もっとふさわしい写真を見つけた。この車のお披露目イベントで、オリンピック金メダリストのイギリス人飛込競技選手、トム・デイリー(Tom Daley)が本物のバゲットをホルダーに差している写真だ。
このホルダーにどうしても花を飾りたいというのであれば、もちろんそうしてもいい。
「E-Tech」という名が示すように、新生ルノー5(サンク)は完全なEV(電気自動車)であり、ガソリン車仕様は設定されていない。
このモデルの開発は、ルカ・デメオ(Luca de Meo)CEO(まもなく退任する)が「ルノーは24カ月で新型車を作れる」とスピーチで述べたことが発端となった。自動車業界としては異例ともいえるスケジュールだったが、目標からわずか数週間の遅れで実現にこぎつけた。
ルノー5の初代モデルは1972年に登場し、たちまち人気を博した。その後、14年間にわたりフランスで販売台数トップの車となり、累計約550万台が販売された。
1970年代後半には「ル・カー(Le Car)」の名でアメリカ市場にも投入されたが、アメリカのドライバーたちを魅了するには至らなかった。だが、改造を施したスポーツ仕様は若者を中心に人気を集め、1981年には「5ターボ」がモンテカルロ・ラリーで優勝を果たしている。
新型ルノー5は、2025年の「欧州カー・オブ・ザ・イヤー」に輝いた。アルファロメオ「ジュニア」、シトロエン「C3-ëC3」、クプラ「テラマール」、ダチア「ダスター」、ヒョンデ「インスター」、起亜「EV3」といった車を抑えての受賞だった。
2024年は小型MPVの「セニック(Scenic)」が受賞しており、ルノーにとっては2年連続の快挙となった。
筆者はこのクルマがなぜ欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したのかを確かめるため、6月上旬の汗ばむ金曜日の午後、ロンドンの北の端まで電車で向かい、ルノー5の試乗を行った。そのモデルはバッテリー容量52kWh、出力150馬力、鮮やかな「ポップグリーン」のボディカラーだった。車両価格はおよそ2万7000ポンド(約533万円)で、WLTP航続距離は約404kmとまずまずの性能を誇る。イギリスの自動車専門誌「What Car?」によれば、このグレードが最もコストパフォーマンスに優れているという。ルノー5の最廉価モデルは約2万3000ポンド(約454万円)からの価格設定となっている。
私は、高速道路M40を通って、ウィリアム・シェイクスピアの生誕地として知られる風光明媚な町ストラトフォード・アポン・エイヴォンへ向かった。道中の大半で制限速度の時速113kmを維持でき、およそ2時間で到着した。
出発前にうっかりiPhoneをオーディオシステムに接続し損ねたため、代わりにBBCラジオ1の「トップ40シングルカウントダウン」を聴くことにした。ちなみに、サブリナ・カーペンター(Sabrina Carpenter)がアレックス・ウォーレン(Alex Warren)の12週連続首位を打ち破ったところだった。
オーディオシステムの音質は見事で、伝説的なフランスの電子音楽アーティスト、ジャン=ミッシェル・ジャール(Jean-Michel Jarre)が手がけたものだという。
小ぶりなEVながら、ルノー5の走りは力強い。制限速度での走行は余裕でこなし、スピード違反になりかねない速度さえ、出そうと思えば出せるだろう。
走行音については「史上もっとも静かな車」とは言い難いが、乗り心地と操作性には文句のつけようがない。
バゲットホルダーのほかにも、この車には魅力的な(あるいは風変わりな)ディテールがいくつも備わっている。例えばボンネットに設置されたバッテリーインジケーターには、数字の「5」が点灯している。これは、ルノー5の特徴ともいえるモダンな照明演出のひとつであり、「おかえり/またね」といった遊び心が込められているという。
ルノー5は運転していてとても楽しい車だった。今年初めに試乗した、退屈なMGとは比べものにならない。もっとも、ダッシュボードや天井に使われたファブリック素材など、数々のユニークな仕様がすべての人に受け入れられるとは限らない。それに、ステアリングまわりには操作レバーが4本もあるほか、ハンドルにも多くの操作ボタンが並び、かなり混乱した。
私が単に混乱しやすいだけかもしれないが、結局この車を返却するまでに、このAT車の操作には最後まで慣れなかった。そして「Multi-Sense」ボタンが何をするものなのか、今でもよくわからないままだ。
返却に行く途中で充電切れになるのは避けたかったので、バンベリーのやや寂れたショッピングモールにある充電ステーションに立ち寄った。そのときにはバッテリー残量が50%ほどになっていた。
実を言うと、EVを充電するのはこれが初めてだった。どのプラグを使えばいいのかを見極めるのに少し時間がかかってしまった(私は要領が悪い)。とはいえ、アカウントを作らなくても、クレジットカードをタッチするだけで利用できたのはありがたかった。
2025-07-04T23:42:52Z