クルマの自動化の波は止まらない! しかし、加齢により感覚や反応が低下し始めたドライバーにとっては、最新の自動化機能が必ずしも使いやすいとは限らない。そこで今回は、身体能力の衰えを感じたら知っておきたいクルマ選びのポイントを紹介する。
文/藤原鉄二、写真/写真AC
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「なんでもオート」は、脳を衰えさせる!?
マニュアル車は自分で操作する感が満点。脳をフル稼働させるマニュアル車の運転は脳トレにも最適という医師もいるほどだ
運転中のシフトを入れるときの手応え、ハンドルを切るときの抵抗感、ブレーキを踏むタイミングや強さ……。こうしたアナログな操作は、本来ならドライバーの五感と脳を総動員して行う「複雑なマルチタスク」であり、脳トレにもなる。
しかし、近年のクルマは何でも「オート化」。便利で安全性が高まるいっぽうで、自分で操作する場面が減り、自分の意思で操作するアナログ的な感覚が薄れつつある。
「五感を使った能動的な行為」は認知機能の維持に役立つことがわかっている。逆に、自動化によって受け身の行動が増えると、脳への刺激が乏しくなり、判断力や注意力の低下を招きやすくなるという報告もある。
「なんでもオート」はたしかに便利だ。だが、頼り切りでは脳は衰えるいっぽう。自ら判断し、操作し、反応する——そんな「脳を使う運転」こそが、安全に、長く運転を続けるためのカギになるといえるのだ。
マニュアル車オーナーは憤慨!? AT車乗りに「ウザすぎ!!」と言われちゃうかもなNG操作
スイッチは「押す」「ひねる」が安心につながる
最近のクルマはタッチパネル化が進んでいる。エアコンもオーディオも、タッチ操作でスマートに……というのがメーカーの狙いだ。
しかし、加齢に伴い脳の機能が少しずつ衰え始めると、この便利であるはずの機能がかえって扱いづらく感じられることが少なくない。
例えば、エアコンの温度調整。昔ながらのダイヤル式のものなら、手元を見なくても「カチカチ」とした手応えで操作できる。
しかし、フラットなタッチパネルでは、どこに触れているかわからず、運転中につい視線を画面に向けてしまう。これは「ながら運転」の原因にもなりかねない。
若いうちは複数の作業を同時にこなすマルチタスク能力が高いが、加齢とともにこの能力は衰えていく。その結果、タッチパネルの操作に気を取られて他の操作がおろそかになりやすく、とっさの危険回避やアクセルとブレーキの踏み間違いのリスクも高まるのだ。
そのため、クルマを選ぶ際には、エアコンやオーディオなどのような頻繁に操作する装備に関しては物理的なボタンやダイヤルで操作できるモデルを選ぶと安心感は高まる。
スライドドアやリアゲートはあえて手動式にするのもアリ
オートのスライドドアやリアゲートは、高齢者にやさしい装備のように思われがちだ。
しかし、「想定外の動き」や「操作とのタイムラグ」が生じ、かえって危険な状況を招くことがある。
閉まりかけている最中に人や物が接触しても反応が鈍く、すぐに止まらないこともある。最悪の場合、体を挟んでしまうような事故が起こる可能性もある。特に、俊敏性が低下した高齢者はこうした事故のリスクが高くなる。
ミニバンなどの場合、スライドドアやリアゲートの開閉は、手動式だと重く、加齢によって体力が落ちた人には負担になることもある。しかし、安全面を重視するのであれば、あえて手動式、もしくは手動と電動の切り替え機能が備わったモデルを選ぶというのもひとつの考え方だ。
電動パーキングブレーキは誤操作や不意な動きを招くことも
オートパーキングブレーキはたしかに便利。しかし、思わぬタイミングで動き出してヒヤッとすることも
さらにパーキングブレーキにも注意が必要だ。
電動式では「スイッチを引く(または押す)」だけで作動するため、従来のような“踏み込んだ”“引き上げた”というたしかな感覚がない。
実際、本当に作動したのか不安になり、何度も確認してしまったなんて体験をした人も多いはずだ。
また、解除のタイミングがアクセル操作と連動しているタイプや、シフト操作に反応して自動で作動するシステムの場合、ドライバーが意図していない場面でパーキングブレーキが解除されることがある。
例えば、「少し前に出して停め直したい」「車庫入れ中に細かく位置を調整したい」といったシーンで、ゆっくり動かそうとした瞬間にブレーキが勝手に解除され、車体が思った以上に動いて焦るといったケースも。
こうした自動解除は便利に思えるが、操作の主導権がシステム側に移ってしまうことで、誤操作につながるリスクもある。
逆に、踏み込み式や手引き式のパーキングブレーキは、操作した実感があるため、「ちゃんと利いている」という安心感がある。
高齢者に限らず、操作の確実性を求める人には、アナログ式のほうが安心できる選択肢といえる。
シートまわりは手動のほうが微調整しやすい
パワーシートや自動チルト&テレスコピックステアリング(ハンドルの位置調整)は便利な装備だが、操作にはそれぞれ専用のスイッチがあり、どのスイッチがどの動きと連動するのかわかりづらいことがある。
さらに、スイッチを離すタイミングが難しく、思い通りの位置に止められないと感じる人もいる。特に微調整したい時に「ここで止めたい」という正確な位置でスイッチを離すのが難しく、止めるタイミングがズレることがある。
特に、高齢者や操作に慣れていない人は、こうした「微妙な操作の難しさ」を感じやすいといわれている。
いっぽうで、手動式のシートやハンドル調整は、レバーを引きながら自分の力で「このくらい」と動かせるため、直感的に扱いやすい。例えば、「あと数cmだけ前に出したい」「ほんの少し背もたれを起こしたい」といった微妙な調整が簡単にできる。
こうした「自分の手で動かす感覚」があることで、調整に対するストレスが減り、毎日の運転姿勢が自然と安定する。特に、運転前に毎回ポジションを調整する人にとっては、手動のほうがかえってスムーズで快適だと感じることも多いのだ。
運転支援はオートでOK。でも、まかせきるのはまだ早い
多くのクルマに標準装備されている“先進安全装備”は、安全運転を後押ししてくれる心強い味方だ。
しかし、注意点はある。すべての制御をクルマまかせにしてしまうと、とっさの判断に遅れが生じることがある。
例えば霧や豪雨では自動ブレーキが作動しないこともあり衝突リスクが高まる。車線維持支援は白線が薄い場所で誤動作し、車線逸脱を招くおそれがある。
また、アダプティブクルーズコントロールは前のクルマが急ブレーキを踏んだ時に反応が遅れて、追突してしまう危険がある。
自動駐車支援はスペースが狭い場所ではセンサーの誤作動や操作ミスが起こりやすく、かえって危険なこともある。
大切なのは、あくまで「運転支援」であって、すべてをクルマにまかせきりでいいわけではないということ。ドライバー自身が常に周囲をしっかり確認し、いざという時には自分で操作して対応するという意識をもつことを忘れてはならない。
投稿 運転に衰えを感じたら…こっそり知っておきたい「なんでもオート」の落とし穴 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。
2025-06-25T21:08:41Z